黒いものを探してうまく隠そう!~頭の体操に最適の雑俳「物者附」拙吟~
作り甲斐のある物者附
江戸言葉遊び・雑俳の兼題、「物者(ものは)附」。
ちゃんと意味が通る物事(表)を「○○だった・した■■」「○○の■■」という形で詠み、題に沿った別の物事(裏)を連想させる遊び。
題意の物事はあくまで裏に隠すもので、表で詠むのはそれとまるで無関係なものでなくてはなりません。
雑俳の中でも難易度の高い兼題で、噺家連中も「未だによくわからない」という者が多い。
でも段々ルールとコツがわかってくると、とても作り甲斐があって楽しいのがこの兼題でもあります。
でも段々ルールとコツがわかってくると、とても作り甲斐があって楽しいのがこの兼題でもあります。
私どもを指導してくださる小ゑん宗匠がよく過去作からお手本として挙げるのが、「空であるするものは」という兼題での「Sのシャツ」。
表はもちろん「Sサイズのシャツ」、では裏に隠れている空に関係するものはいったい何?
「空に舞う、胸にSマークが入ったシャツ」の絵柄を頭に思い描けば…。わかりますよね?

そう、風に飛ばされた洗濯物!

そう、風に飛ばされた洗濯物!
ではもちろんなくて、正解はこちら。


どうでしょう、物者附のルールと面白さ。 少しはお伝えできましたでしょうか。
拙吟「黒いもの」問題編
2023年前半に行われた私どもの雑俳の会で、小ゑん宗匠から出された題の一つが物者附「黒くてあるするもの」。
黒いものって何があったかな…。
カラス・タイヤ・海苔、色々思いつきます。
カラス・タイヤ・海苔、色々思いつきます。
わが家で夕食の時よく見られるこんな光景、黒と黒。


今回この題での私の拙吟は、以下の10句。
①落ちた足元
②干された浅草
③すった汁
④右折した車
⑤固かった銀杏
⑥吐いた逃げ口上
⑦半ぱだった鍵や
⑧灰をまいた山
⑨門をとざした音
⑩蒸しかえした関わり
②干された浅草
③すった汁
④右折した車
⑤固かった銀杏
⑥吐いた逃げ口上
⑦半ぱだった鍵や
⑧灰をまいた山
⑨門をとざした音
⑩蒸しかえした関わり
表の意は本来説明すべきものではありませんが、②⑦は落語ファンでないとわかりにくいかもしれないので野暮を承知で記しますと…。
②「浅草」は寄席『浅草演芸ホール』、そこに最近使われなくなったなーという嘆き。
⑦江戸の大きな花火店『鍵屋』は、並び称される『玉屋』より技術・人気面で劣っていたから、商売としてはちょっと「半ぱ」。
後はまぁ、見た様読んだ通りの意味です。
そしてそれぞれの句の裏に「黒いもの」が隠されているのですが、さぁそれは何でしょうか?
この後に答えを記しますが、その前に少しだけ読者皆様も考えてみてください。自分の頭の中で、あるいは他の人と「あれかな、これかな?」と思いを巡らせてみるのは、けっこう楽しいと思いますよ!
それではしばし、
Thinking Time!
Thinking Time!

拙吟「黒いもの」解答編
①影
②海苔
③墨汁
④右翼の街宣車
⑤熊本城
⑥イカスミ
⑦半音の鍵盤
⑧炭
⑨闇
⑩蒸気機関車
②海苔
③墨汁
④右翼の街宣車
⑤熊本城
⑥イカスミ
⑦半音の鍵盤
⑧炭
⑨闇
⑩蒸気機関車

①~⑥は表が表す情景から裏を連想する「絵物者(えものは)」。
⑦~⑩は表に含まれる文字が裏を想起させる「字物者(じものは)」。
⑧は「山」「灰」を合わせて「炭」、⑨は「門」の中に「音」が入って「闇」。このように漢字を分解して表で詠むテクニックもありです。
⑦~⑩は表に含まれる文字が裏を想起させる「字物者(じものは)」。
⑧は「山」「灰」を合わせて「炭」、⑨は「門」の中に「音」が入って「闇」。このように漢字を分解して表で詠むテクニックもありです。
楽しさ深まる
読み手との知恵比べ
読み手との知恵比べ
物者附が他の雑俳兼題と異なるのは、「作者と読み手間での知識共有」が必要になる点。
こちらが句意に込めた表→裏へ誘導する仕掛けを読む側がまるで理解してくれないと、句の上手い下手以前にまるで面白味が伝わりません。

今回拙吟では、「⑤固かった銀杏」がそうでした。
難攻不落と言われた「守りの固い」熊本城は、外壁の色から「黒い城」の代表格ともされています。そして敷地内には多くイチョウが植えられているところから、熊本城の別名は「銀杏城」!

難攻不落と言われた「守りの固い」熊本城は、外壁の色から「黒い城」の代表格ともされています。そして敷地内には多くイチョウが植えられているところから、熊本城の別名は「銀杏城」!

実はこれ、けっこう自信があったのですが…。
残念ながら「銀杏城」「黒い城」に思い至ってくれる人が少なく、互選会ではまるで採ってもらえませんでした。
残念ながら「銀杏城」「黒い城」に思い至ってくれる人が少なく、互選会ではまるで採ってもらえませんでした。

そしてもう一つの自信作が、「⑥吐いた逃げ口上」。
これは絵物者と字物者のハイブリッドになっておりまして、キーワードは「口上」。
イカが敵に吹きかける黒い液体、そのイカスミを発する部分。口と勘違いしがちですが、これは「漏斗」と呼ばれる推進機関。ここから海水を噴射して水中を進みます。
本当の口は脚の付け根にあり、そこより上にある漏斗から出すイカスミだから「口上」。


小ゑん宗匠からは「字が一つも遊んでない(無駄な文字がない)」とのお褒めの言葉とともに、選を頂戴しました。

こんな具合の言葉遊び、時間のある時なんとなく考えてみるといい頭の体操になるんですよ!
ぜひ皆様も、豊かな言葉の世界に遊んでみてください。
ぜひ皆様も、豊かな言葉の世界に遊んでみてください。

入船亭扇治・記
※雑俳物者附につきましては、
でも綴っております。
でも綴っております。
この記事へのコメント