其角の有名俳句に想を得たマジシャン作家の名短編と、”新しい言葉”を探す若者たちの一気読みエンタテイメント大作~噺家の呑気な余興でも遊んでみよう~
「てやんでぇ、べらぼうめ。書いた証文反故にはなっても、吐いた唾は元にゃ戻らねんだい!」
"約束をたがえない"のが自慢だった江戸っ子たちの、威勢のいい啖呵。
"約束をたがえない"のが自慢だった江戸っ子たちの、威勢のいい啖呵。

こまちのは、なんだか煮え切らないなぁ。
短い文章だからこそ
大事な「言葉の選び方」
大事な「言葉の選び方」
2001年5月9日。当時内閣参与だった経済学者・高橋洋一氏がTwitterで呟いたこの言葉が、のちのちかなりな物議をかもすことになりました。
国民の多くが皆不自由をこらえて自粛で感染防止に協力しており、コロナ対応の医療従事者の方々も大変な中。
「あまりにも、不謹慎だろう!」という声が全国であがり、初めは私も(なんか無神経なおじさんだなぁ)と憤慨したもの。
「あまりにも、不謹慎だろう!」という声が全国であがり、初めは私も(なんか無神経なおじさんだなぁ)と憤慨したもの。
でも少し日を置いて、ほかの報道なども照らし合わせてみると。
くだんの呟きと一緒に掲載された世界感染者数推移のグラフ自体はとても正確なもので、発言の真意ももう少し違うところにあったらしいということがわかってきました。
くだんの呟きと一緒に掲載された世界感染者数推移のグラフ自体はとても正確なもので、発言の真意ももう少し違うところにあったらしいということがわかってきました。
「さざ波」という言葉だけを切り取りクローズアップした記事だけでは、いかにも私たちの感情を逆なでするだけの発言のようにとれますが。
ひとつの報道だけでことの良し悪しを判断するのは危険だなと、かつてのマスコミ志望者としてはあらためて実感した次第。
ひとつの報道だけでことの良し悪しを判断するのは危険だなと、かつてのマスコミ志望者としてはあらためて実感した次第。
結局高橋氏は”さざ波”へ火に油を注ぐ”屁のような”発言(これも本来は国の緊急事態宣言等が緩すぎて、実効性に乏しいことを批判した言葉らしい)で、自ら内閣参与を辞することに。
生意気なようですが日々言葉を商っている噺家としては、
と言わせてもらいたくなります。
と言わせてもらいたくなります。
”さざ波”だけならまだしも、”笑笑”と続けたら反感買うなんて。失礼ですが、うちのこまちでもわかるんじゃないでしょうか。
ことに140字以内という制限がある、Twitterでの発言。
俳句と同じく短いからこそ、言葉の選び方には神経を使わなくてはいけないと。
これも高橋氏の件を他山の石として、肝に銘じておきたいものです。
俳句と同じく短いからこそ、言葉の選び方には神経を使わなくてはいけないと。
これも高橋氏の件を他山の石として、肝に銘じておきたいものです。
有名俳句が表す
表裏一体・吉原の陰と光
表裏一体・吉原の陰と光
俳句が出てきたところで、宝井其角のよく知られた句をご紹介。
闇の夜は
吉原ばかり
月夜かな
遊女三千人御免の場所・日本最大級の遊郭の夜を詠んだものですが、これはだまし絵のようにふた通りの解釈ができるのでも有名。
吉原ばかり
月夜かな
遊女三千人御免の場所・日本最大級の遊郭の夜を詠んだものですが、これはだまし絵のようにふた通りの解釈ができるのでも有名。
通常の読み方は
「月の出ていない真っ暗な晩も、不夜城吉原だけは明々と灯りをともして栄えている」というもの。

「月の出ていない真っ暗な晩も、不夜城吉原だけは明々と灯りをともして栄えている」というもの。
これに別解釈を唱えたのが、幸田露伴(それ以前に、ある噺家も同じ解釈をしていたとの説もあり)。
五七五の切れを、先ほどとはちょっと変えてみるだけで
「世間は明るく月に照らされる中、吉原だけは苦界に沈む女性たちの絶望で暗い闇に包まれている」。

「世間は明るく月に照らされる中、吉原だけは苦界に沈む女性たちの絶望で暗い闇に包まれている」。

光と闇が、
一瞬にして逆転。
一瞬にして逆転。
このトリッキーな句を題材にしたのが、卓越したマジシャンでもあったミステリ作家・泡坂妻夫の『椛山訪雪図』(短編集『煙の殺意』所収)。
※書籍の画像は著作権に抵触しないよう、Amazonのリンクを貼らせていただいております。次項でご紹介する作品も同様です。ご了承ください。
☆高名な美術蒐集家のもとから盗まれたはずの北斎の掛け軸は、なぜ何事もなかったかのように書庫へ戻っていたのか?
☆紅葉の風景を描いてあるのに「椛山訪雪=もみじの山に、雪を訪ねる」と題された、もう一幅の絵に隠された秘密とは?
こだわり職人作家の、鮮やかな技が味わえる名作。
私は先述の其角の句が出て来る落語『文七元結』をやる時など、よく読み返しています。
戦う若者たちが求める
”自分たちの、新しい言葉”
”自分たちの、新しい言葉”
続いて思い切りエンタテイメントしながら、”言葉”の繊細さを感じさせる小説をご紹介。
最近は『機動戦士ガンダム』関係の方で忙しい福井晴敏の、私的には『終戦のローレライ』と並ぶお気に入り小説『Op.(オペレーション)ローズダスト』。
様々な事情により、日本の非公開情報機に属することとなった少年少女たち。
自分たちの置かれた境遇と、国内外の諸事情の板挟みでつい懐疑的になりがちな主人公。
そんな中同じチームを組んでいる少女が、「ねぇ体制に縛られない、あたしたちだけの新しい言葉を探してみようよ」と提案します。
そしてある日、冬の日本海を前に。波しぶきが岩に当たってくだける”波の花”を見た主人公が思わず「バラみたいだ…」、もう一人の少年は「綿埃じゃねえかあんなの」と口にしたのを、言い出しっぺの少女が「お二人の意見を、総合してみました!」と紡いでみせたのは…。
”ローズダスト”という、
今までになかった言葉。
「作っていかなきゃ、あたしたちの新しい言葉」と言いながら、楽しそうに浜辺でステップを踏む少女。それを見守る、二人の少年。
若くして国家間諜報戦の中に身を置くことになった彼らは、そのあと残酷な運命に翻弄されて敵味方へと立場を変えていく…。
自分たちの置かれた境遇と、国内外の諸事情の板挟みでつい懐疑的になりがちな主人公。
そんな中同じチームを組んでいる少女が、「ねぇ体制に縛られない、あたしたちだけの新しい言葉を探してみようよ」と提案します。
そしてある日、冬の日本海を前に。波しぶきが岩に当たってくだける”波の花”を見た主人公が思わず「バラみたいだ…」、もう一人の少年は「綿埃じゃねえかあんなの」と口にしたのを、言い出しっぺの少女が「お二人の意見を、総合してみました!」と紡いでみせたのは…。
”ローズダスト”という、
今までになかった言葉。
「作っていかなきゃ、あたしたちの新しい言葉」と言いながら、楽しそうに浜辺でステップを踏む少女。それを見守る、二人の少年。
若くして国家間諜報戦の中に身を置くことになった彼らは、そのあと残酷な運命に翻弄されて敵味方へと立場を変えていく…。
冒頭の日本海のシーンから、終盤の特殊爆弾を巡るお台場での壮絶な攻防戦→脱出劇。そして福晴節炸裂、思い入れたっぷりのラストまで。
ハードカバー上下2巻・文庫3巻の大長編ですが、一気読み必定の作品に仕上がっています。
ハードカバー上下2巻・文庫3巻の大長編ですが、一気読み必定の作品に仕上がっています。
噺家の『字遊び』で、
言葉をもっと楽しく!
言葉をもっと楽しく!
おっとついつい思い入れのある作品なので、あらすじ紹介が長くなってしまいました。
今回もう一つのテーマは、私たちも『Op.ローズダスト』の登場人物たちのように「新しい言葉を作ってみませんか?」というお誘い。
前述の大学教授に限らず総理大臣・政権与党の幹事長なんて責任ある立場の方たちの、妙な言い回しが目立つ昨今。
ニュースでそういう言葉を見たり聞いたりして、連日「やれやれ…」思うことばかり。
ニュースでそういう言葉を見たり聞いたりして、連日「やれやれ…」思うことばかり。
でもそんなことで、こちらがストレスが溜めていたんじゃバカばかしい。
こういう時こそ、言葉をうまく使って遊んじゃいましょう!
こういう時こそ、言葉をうまく使って遊んじゃいましょう!
5月23日まで皆様から募集させていただいておりました『第4回web版言の葉落語会』も、その一つ。
大勢の方からお寄せいただいた秀句の数々をまとめた一覧『地巻』は、現在当方にて鋭意作成中。
もう一つの別案件と並行しての作業になりますので、公開まではもう少々お時間を頂戴します。ご了承ください。
大勢の方からお寄せいただいた秀句の数々をまとめた一覧『地巻』は、現在当方にて鋭意作成中。
もう一つの別案件と並行しての作業になりますので、公開まではもう少々お時間を頂戴します。ご了承ください。
今回は噺家の余興の中から、『字遊び』をご紹介。
もっともすべて落語界オリジナルというわけではなく、昔からあるクイズなどを元に噺家流にアレンジしたもの。
もっともすべて落語界オリジナルというわけではなく、昔からあるクイズなどを元に噺家流にアレンジしたもの。
その字遊びで一番ポピュラーなのは、「魚へんの漢字」。
魚へんでも屈指の名作と言われているのが、こちら。

魚の隣に「値段」で、
海産物の名前。
ヒント:子どもさんに人気の、お寿司のネタ。

魚の隣に「値段」で、
海産物の名前。
ヒント:子どもさんに人気の、お寿司のネタ。
答えは、
「いくら」。

ただこれが、英語圏のお客様を前にすると答えが変わってきまして。
魚へんに値段で、
「How much?=ハマチ」
ってことになります。
魚へんに値段で、
「How much?=ハマチ」
ってことになります。
魚に「広大」。

こちらは、「ウニ」。
♪うーにーは広いな 大きーいなー…。洒落も、説明しなくちゃいけなくなったらおしまいですな。
♪うーにーは広いな 大きーいなー…。洒落も、説明しなくちゃいけなくなったらおしまいですな。
これはおそらく噺家考案によると思われるのが、 魚へんに「酒」。

ズバリ「サーモンの、”さけ”でしょ?」なんてお答えが、よく出ますが。
ここはもうひとひねりして、「酒」の隣に「魚(うお)」がいるという解釈で読み解いてみましょう。すると魚介類ではなく、お酒の名前に。
ここはもうひとひねりして、「酒」の隣に「魚(うお)」がいるという解釈で読み解いてみましょう。すると魚介類ではなく、お酒の名前に。
「ウオッカ」
これが正解。
これが正解。
それではこの応用編、 「酒」へんに「笑」。

「笑い上戸」じゃありませんよ。

「笑い上戸」じゃありませんよ。
ハイ、答えはウヰスキーの 「ニッカ」 でしたー!
こういう使い方なら、”笑笑”とやっても人を不愉快にはさせないのでは。
こういう使い方なら、”笑笑”とやっても人を不愉快にはさせないのでは。
以上呑気な噺家の字遊びで、少しでも”ニッカ”と笑っていただけましたでしょうか。
雑俳とはまた別に、こういう「新しい漢字」でご家族やご友人方と遊んでみるのもまた一興かと。
よろしければ、
お試しください。
よろしければ、
お試しください。

お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
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入船亭扇治拝
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