俳人噺家が伝授する「俳句がめきめき上達する」二つのコツ
新型コロナウイルスの影響により、増えた在宅時間。
ともすれば溜まりがちなストレス発散と時間の有効活用のため、新しい趣味を始められた方多いことでしょう。
ともすれば溜まりがちなストレス発散と時間の有効活用のため、新しい趣味を始められた方多いことでしょう。
の記事でおすすめした、俳句もその一つ。前からおやりになっていた方も新規に始めた人も「言葉の豊かな世界に浸って、充実した日々を送っています」とおっしゃる声、新聞の投書欄などで複数目にしました。
始めたからにはうまく詠みたいけれど、なかなか上達せず途中でやめてしまう方も、やはり多いかと。
そこで今回は、手っ取り早く俳句がうまくなるコツ二つをどどーんとご披露。
経験者・初心者を問わずここを押さえたら、一気に俳句上達間違い無し!
そこで今回は、手っ取り早く俳句がうまくなるコツ二つをどどーんとご披露。
経験者・初心者を問わずここを押さえたら、一気に俳句上達間違い無し!
偉い先生がお書きになった俳句作法の本があまたある中、素人の私が言うことではもちろんありません。
歴史ある俳句結社『馬酔木』の同人で、俳人としても一定の評価を受けていた私の師匠・扇橋から直接教わったこと。
※扇橋と俳句の出会いについては上記記事内でお読みいただけます。
歴史ある俳句結社『馬酔木』の同人で、俳人としても一定の評価を受けていた私の師匠・扇橋から直接教わったこと。
※扇橋と俳句の出会いについては上記記事内でお読みいただけます。
コツその1~日記のつもりで詠む~
「扇治はお父つぁんおっ母さんとも先生で、自分もいい大学出してもらって本が好きなんだから」
師匠から俳句をやるといいよとすすめられ私自身も興味がありましたから、「どうやったら、早くうまくなりますか?」素人ものに動ぜずで尋ねると師匠いわく。
「習うより慣れろ」「好きこそものの上手なれ」だから、うまい下手関係なくまず数多く詠むことだな。
とにかく日記のつもりでその日見た風景や思ったことを、最低でも1日1句ずつ詠んでりゃあっという間にうまくなる」
ああ、多くの人の
「そんなことならわかってるけど、それがなかなかできないから困ってんだよ!」
という声が聞こえる。
私も、そう思いました。
「それは師匠ほどの経験者だからできることで、私たち素人には毎日1句なんてとても無理です~」
泣きを入れると補足説明してくれたのが
「日記代わりに詠む」と言っても
の2点。
①、これは次項の『コツその2』と関連しますが、詠んだその時点で完璧なんてまずあり得ないので、とにかく心に留まったことをメモ代わりに五七五の短文にしておく。
②、本当の日記だってなかなか続かないんだから間が開くのは仕方がないと割り切って、「とにかく毎日!」と意気込み過ぎない。5日続けて6日目に飽きちゃったとしても、ひと月たって旅先なんかでまた思い立ったら詠み始めればいい。
どうです、これならかなり「日記代わり」のハードル下がるんじゃありませんか?
私も未だに、突然俳句熱高まって連日10句くらい詠んですぐ息切れ→大学の先輩方の句会が近づき急いで兼題で吟→それが終わるとほっとしてしばらく詠まない→旅先できれいな花など見てまた俳句熱再燃・・・この繰り返し。
私も未だに、突然俳句熱高まって連日10句くらい詠んですぐ息切れ→大学の先輩方の句会が近づき急いで兼題で吟→それが終わるとほっとしてしばらく詠まない→旅先できれいな花など見てまた俳句熱再燃・・・この繰り返し。
それでも「間が開いてもいいから気持ちは日記として継続している」という意識でいると、少しずつでも句を詠む習慣が身につきひいては上達に繋がっているような気がします。
上達と言ったって、たいしてうまかありませんけどね。
上達と言ったって、たいしてうまかありませんけどね。
コツその2~とにかく推敲、それも楽しんで~
前項①で拵えた五七五の短文、それに根気よく何度も手を入れてだんだんと完成形に近づけていく。
「推敲」の作業ですね。
私の師匠は、それを「楽しんでやれ」と教えてくれました。
「推敲」の作業ですね。
私の師匠は、それを「楽しんでやれ」と教えてくれました。
俳句って十七文字しかないところへ、見た風景・自分の気持ちをこめなくちゃいけない。
「あれも入れたい」「これも詠んどこう」でも字数に入り切らないから、どこをどう切るか。
助詞でつなぐか、体言や連体形でリズムを作るか。自分の愛着がある句ほど推敲の時うんうんうなって悩むんだけど、それを苦に思っちゃいけない。
かわいい自分の子に、どんな服着せてやったら似合うか・髪型はどう整えてやるか・・・。
そう思って楽しんで手を入れていくと、「俳句が応えてくれる瞬間」がきっとある。
人間と同じで、手塩にかけてやればきっと立派に成長してくれる・・・という師匠の教え。
確かにこの1字をどうするかで呻吟するのは、悩みつつもけっこう楽しい。
大学句会や雑俳用に拵えた句を推敲してると、「えっ、もうこんな時間?」と思うほど時の経つのを忘れることがあります。
確かにこの1字をどうするかで呻吟するのは、悩みつつもけっこう楽しい。
大学句会や雑俳用に拵えた句を推敲してると、「えっ、もうこんな時間?」と思うほど時の経つのを忘れることがあります。
推敲で変わる句~扇治篇~
下手な句で恐縮ですが、手を入れると最初のメモ代わり五七五がどう変わっていくかの実例・まずは扇治吟から。
今から2年前、大学の『ソフィア俳句会』で春季雑詠した時の句。
3月に入り陽気が一気に暖かくなり、我が家の愛猫こまちの寝相も様代わり。
3月に入り陽気が一気に暖かくなり、我が家の愛猫こまちの寝相も様代わり。

寒い時期はできるだけ体温を逃さないように丸まっていわゆる「猫ワッサン」「ニャンモナイト」だったのが

陽の当たる窓辺に、びろ~ん。
おっこれで1句詠めるなと、さっそく下手でいいから五七五でメモ。
春が来て猫が窓辺に寝ているよ
いかにメモといえど、我ながらこれはひどい。
うちの長女が小学校の宿題で詠んだ
うちの長女が小学校の宿題で詠んだ

これと同レベル、いやそれ以下かも。
これじゃ大学の先輩方のお目にはかけられませんから、せっせと手を入れます。
少し、俳句っぽくしなくちゃ。
これじゃ大学の先輩方のお目にはかけられませんから、せっせと手を入れます。
少し、俳句っぽくしなくちゃ。
① 春の日や猫は窓辺にのびにけり
うんかなりもっともらしくなったし、丸まってた猫がのびたということも表現できた。
この線でいけそうだな。
「春の日」はちょっともたつく感があるから、季語で「春めく」にするか。季節の移り変わりもよくわかるしな。
この線でいけそうだな。
「春の日」はちょっともたつく感があるから、季語で「春めく」にするか。季節の移り変わりもよくわかるしな。
② 春めきて猫は窓辺にのびにけり
・・・もうひと息かな。「猫は」の「は」はない方が俳句味が増すなぁ。
③ 春めきて猫窓際にのびにけり
あとちょっと。「のびにけり」だと、うーんと身体をのばしているのか長くなって寝ているのかわからない。
もっと、丸まってたのが長ーくなったことを表すには・・・。
丸く結ばれていたのが、まるでほどけるように。
ん!「ほどける」?
これだ!
もっと、丸まってたのが長ーくなったことを表すには・・・。
丸く結ばれていたのが、まるでほどけるように。
ん!「ほどける」?
これだ!
④ 春めきて窓際に猫ほどけをり
こう詠んだ句は幸い多くの方の選に入れていただき、こまちもさぞ面目がたったことでしょう。

推敲でこの句もこんなに変わった~扇橋篇~
拙い句をご披露したお口直しに、師匠扇橋の自他ともに認める代表句。
しあはせは玉葱の芽のうすみどり
の成立過程をご紹介しましょう。
「俳句上達には、まめな推敲が肝心」と教えてもらっている話の流れで、師匠から聞いたエピソード。
①この句の原形は
玉葱の知らず緑が芽吹きけり
だったそうです。
冷蔵庫に入れないでダイニングキッチンの隅の床に置いといた食材の玉葱が、気がつかないうちに頭んとこからポッチリとかわいい芽を出してた。
「見てよお父ちゃん、玉葱がこんなんなっちゃたよ!」
おかみさんが笑いながら師匠に見せている光景。
このままだと、そのおかみさんの笑顔がまるで入ってない。
②そこで
玉葱の緑芽吹きて妻わらふ
おかみさんにも登場してもらいました。
初心者ならこれで充分かと思いますが、扇橋は痩せても枯れても『馬酔木』同人。
よく見ると出たての玉葱の芽は、まだそれほど深い緑色ではないことに気づきます。
初心者ならこれで充分かと思いますが、扇橋は痩せても枯れても『馬酔木』同人。
よく見ると出たての玉葱の芽は、まだそれほど深い緑色ではないことに気づきます。
③ 玉葱の芽はうすみどり妻わらふ
出来ました師匠、それで完成、座布団一枚!
私なら言っちゃいますが、さらに先を目指すのが熟練俳人。
私なら言っちゃいますが、さらに先を目指すのが熟練俳人。
玉葱の芽がちょっとだけ芽吹いて、それが笑い話になる。
師匠夫妻は二ツ目から真打ちになってしばらくの時期、仕事が少なく本当に苦労したそうです。
師匠夫妻は二ツ目から真打ちになってしばらくの時期、仕事が少なく本当に苦労したそうです。
経済的に苦しい時は、玉葱に芽吹かせてる余裕なんてなかったでしょう。
食材は2・3日のうちに使い切って、余らせることはあり得ない。
もしあったとしたら、
食材は2・3日のうちに使い切って、余らせることはあり得ない。
もしあったとしたら、
夫婦喧嘩が起きて、とても俳句なんて詠んでる場合じゃありません。
それが今では僅かながら蓄えもあり、暮らしにゆとりが出てきた。
ああ、昔を思うと玉葱が芽吹いて気がつかない今の我が家は幸せだ。
それも芽の色のように、ごくささやかな幸福。
ここで「うすみどり」「しあわせ」の言葉が、扇橋の脳内俳句回路にきっちりと収まり・・・。
④ しあはせは玉葱の芽のうすみどり
生前の著書『扇橋歳時記』のサブタイトルにも使われ、何より当人が
「たくさん句は詠んでるけど、僕はこれが一番好きだな」と自負する代表句の誕生。
「たくさん句は詠んでるけど、僕はこれが一番好きだな」と自負する代表句の誕生。
名入り手拭いのデザインにも使用。

5年前空の向こうへ旅立つ時にはお気に入りの羽織・大ファンだった島倉千代子さんのブロマイドととも、にその手拭いをお棺に入れて見送りました。
何でも楽して短期間で上達しようというのは虫のいい話ですが、苦労を楽しさに変えて俳句に親しむという扇橋の教え。
ご参考になれば幸いです。
ご参考になれば幸いです。
私もあらためてこの言葉を胸に刻み、俳句や雑俳を詠んでいきたいと思います。
池袋演芸場で最初に『言の葉落語会』やった時の兼題「笠附川柳・ぜいたくは」での拙作。
ぜいたくは普通が普通にできること
その時はまるで選に入らなかったのですが、今ならけっこうタイムリーなんじゃないかと。
天国の師匠、苦笑いしてるでしょうか。
天国の師匠、苦笑いしてるでしょうか。

師匠扇橋との想い出はほかにも
でご閲覧・ご試聴(ボイスメッセージ付き!)
お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
またぜひ、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
またぜひ、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
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